SQALF [放射能]Q&A
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このページではSQALFに寄せられた質問のうち、 「放射能」 関連について、回答と併せて紹介します。 |
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確定的影響として出されている症状はしきい値を超えると必ず起こる症状と考えてよいのでしょうか?(第43回大阪大学21世紀懐徳堂講座A-5アンケートより) |
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A
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(核物理研究センター 准教授 藤原 守) 放射線の影響はしきい値のある確定的影響としきい値のない確率的影響に分類出来ます。放射線は体に当たると電離作用があり細胞内の酸素イオン(ラジカル)などを作ります。ラジカルができると細胞分裂の時に、DNAに作用したりして、異常な細胞が出来たりするわけです。際限無く増殖するガン細胞もその中の一つです。しかし、異常な細胞はほとんどが自分で死滅しますし、ガン細胞なども動物が持っている免疫作用でほとんどが殺されてしまします。放射線を被ばくしなくても常に異常細胞が発生し、自分と違う細胞は生命体の持っている免疫という機能で殺されてしまうのです。 一時に100mSv以内の放射線被ばくを受けても人間の体には臨床症状はあらわれません。赤ちゃんが一時的に100mSvの被ばくをすると平均寿命が2歳程度減少するとの推定もあります。しかし、一時的に被ばくするのではなくて、ゆっくりと被ばくした時の症状は実はよくわかっていません。 2011年10月に東京世田谷区で床下にラジウムが埋められていて、知らずに毎年30mSvの被ばくをして50年も住まわれていたご家族のニュースがありました。お父さんは82歳で老衰で死亡、お母さんは92歳でいまだに元気、その家で育った3人の子供もガンになることなく育っているようです。この一例で、放射線被ばくをしてもガンにならないというのは事例が少なすぎて科学的結論は引き出せないですが、ゆっくりと放射線被ばくした時の影響はよくわからないということの好例にはなります。 確定的影響ですが、一時的に1Svもの大量放射線被ばくすると、まず神経がすこし機能しなくなり、吐き気がすると報告されています。続いて、不妊、白内障、脱毛などが起こります。放射線障害の確定的影響は、活発に増殖を繰り返している細胞にまず現れます。したがって臓器によって影響の出方が違います。活発に増殖を繰り返して白血球を作りだしている骨髄などが放射線被ばくすると、白血病になると恐れられているのはこのためです。しかし、実際には、放射線被ばくで白血病になったと証明されている事例はほとんど無いようです。 確定的影響については「急性放射線症候群」というキーワードで検索されるとウイキペヂアで詳細な説明が得られます。 |
Q
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第43回大阪大学21世紀懐徳堂講座A-6「原発事故の生物に対する影響を正しく理解するために」資料のホルミシスの説明で、電力会社の資金提供によるデータでまゆつばのところがあるが、将来はわかるというような説明がありました。将来とは今回の福島の原発事故の経過をたどればわかるということなのでしょうか?(第43回大阪大学21世紀懐徳堂講座A-6アンケートより) |
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(医学系研究科 助教 中島裕夫) 少し誤解されたようですが、電力会社が資金提供した実験だから眉唾ではなく、放射線が危険極まりないという考えが主流である中で微弱な放射線が健康によいかもしれないというホルミシスの研究は多くの人たちの間で眉唾的に取られているという事です。放射線の危険に関する研究には研究資金が集まりますが、健康に良いかもしれないという研究には余り集まりません。そこに資金提供しているのが電力会社と言う事です。自然放射能が高い所で生活している人々、放射線を浴びる職業をしている人々、国際線パイロットなどを対象にした疫学調査では、がん死亡率が減っていることが国内外で報告されています。また、微弱な放射線が、細胞を刺激して、免疫力、遺伝子の修復能力などを活性化すること(適応応答)も報告されています。 今後時間はかかるでしょうが、研究資金が多く集まればこれらの真偽を見極める研究も進むことと思います。福島原発事故の経過観察もある意味長い目で見ると自然放射能の高いところで生活している人々の疫学調査と同じようなことです。 |
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福島県のお母さん達が子供達への放射能の影響について大変心配されていますがこれらは過剰反応と考えられますか?(第43回大阪大学21世紀懐徳堂講座A-6アンケートより) |
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(医学系研究科 助教 中島裕夫) 子供のことを一番考えているのは母親です。ですから昨今の母親の行動は当然のことだと思います。ただ、問題なのは、冷静さを欠く様子や、極度な食事制限をしている母親などの映像をニュースとして流し続けている事で、多くの人の不安な感情をより動揺させることになるのでよくないことだと思います。今は過渡的な時期ですので、放射線のことをよく知らない人や過激報道などに過敏に反応している人は多くいると思います。しかし、自分の子供のためにしっかりと勉強をされると思われます。それが母親です。後は、各々の経済が許す限り、容認できる限りの範囲で防衛行動がなされることだと思います。そして、多くの人の勉強が進み、ある知識レベルを共有できるようになった時が大方の収束点になるのだと思います。 |
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原発の影響は生物に対してはあまりないと考えてよいのでしょうか?事故現場の作業員で足に炎症をおこされた方がおられましたが、その方は5000mSv位、放射線を浴びたということなのでしょうか?(第43回大阪大学21世紀懐徳堂講座A-6アンケートより) |
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(医学系研究科 助教 中島裕夫) 巷で話題になっている皆さんの生活圏での被曝については心配はいらないと思われます。ただ、どの程度の障害を想定して怖がるかは人によって異なります。残念ながら懸念される対象が確率的影響ですので福島原発20kmゾーン内でもすべての人に影響が出るという心配は全くないのですが、逆に線量が低くても確率的に全く影響がないということも言えません。従って、どれくらいの影響確率まで容認できるかがカギとなります。そしてそれを決めるのは人それぞれですので、容認できる環境に自分を置くことが精神衛生上よいのではないかと思われます。奇しくも東京世田谷で起きたラジウム事件では、福島で問題にされている以上の線量を浴び続けていた夫婦が何事もなく高齢まで存命であったという事、その子供たちも元気で成人して子供をもうけたことが福島のレベルを考える上での一つの明かりかもしれません。 作業員の足の炎症の件ですが、直接診たわけではござませんので何とも申し上げられません。ただ、教科書的に申せば、感染による炎症ではなく放射線の影響による炎症と言うことであれば、足に対して多くの放射線被曝があったことが予想されます。特に、講演で申しあげましたようにベータ線はヒトの体の数ミリの深さで止まりますので皮膚への障害が起きやすく、足に少量であっても放射性物質が長時間付着していると付着部位が炎症を起こすに足る被曝線量になる可能性は充分にあります。 |
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福島第一原発周辺はいつになれば安全(入ってもよい)となるのでしょうか? (30代 女性) |
A
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福島第一原発周辺の放射能レベルは距離によって、また地形によって違いますが、30年たっても放射能レベルの減らない高放射線領域に、何も対策を講じないでそのまま住めるようになるという状況は考えられません。長期間にわたる科学的検討と着実な施策立案によって福島の再生が可能となるでしょう。また、個人の人々の問題はしっかりとした科学的対応で解決していくことも極めて重要です。 |
(核物理研究センター 准教授 藤原 守)
[回答全文] 福島原発周辺の放射能レベルは距離によって、また地形によって違います。 3月の福島第一原子力発電所事故では水素爆発のために原子炉中の放射性物質(主にヨーソ131( 131 I:半減期8日), セシウム( 134 Cs:半減期2年, 137 Cs:半減期30年)が大気に飛散し、それが、雨や雪が降ることによって地上に降り注ぎました。気象条件の違いで初めは北部の方向に風によって運ばれ、飯舘村などに多くの放射性物質が地上に降下しました。その後、この風向きは太平洋側に向かい、その後、南に方向を変えました。その時々の、雨や雪の降り方で地上に降った放射性物質の降り方が違うのです。ヨーソとセシウムは水への溶融度の違いによって土壌放射性物質の降下の仕方が違うという事が、はっきりしています。また、20km圏外の飯舘村の放射能レベルが高く、20km圏内のすぐ近くの川内村などの放射能は1 μSv/hレベルで普通に生活しても全く大丈夫なようです。文部科学省プログラムをリードした形で大阪大学は、こういった放射性物質汚染度マップの作成に大きく貢献しています。 ヨーソ131の半減期は8日です。この放射能は80日も経てば1000分の1になり160日(約半年)も過ぎれば百万分の1に減少します。しかしセシウム137の半減期は30年ですから、30年経っても半分ということになり降下した放射能はなかなか減少しません。降下した放射能は、土壌表面にくっつき雨が降っても5cmも浸透していない事もわかっています。 屋根に降った放射性物質は、太陽に照らされ雨に流され雨樋に集まります。雨樋の下の地面の放射能レベルが高いのはこのためです。また、道路のアスファルトの上に降ったものは雨に流され側溝に集まります。側溝に集まった土砂は、大量の雨が降る梅雨後に川に流され河川の汚染ということになります。樹木の葉っぱにも放射性物質がくっついています。秋になって、木の葉が舞い落ちる季節には、やはり放射性物質の拡散が起こります。 夏の日照りに照らされ、表面の土壌がホコリとなって風に舞いあげられる季節にも放射性物質の拡散が起こります。しかし、一般的に言って、土壌や大気の循環によるこれらの拡散過程は非常にゆっくりしたものです。 したがって一般的に云えば、30年経っても放射能レベルの減らない高放射線領域に、何も対策を講じないで、そのまま住めるようになるという状況は考えられません。 個々の住居に対しての放射能被曝を低減する方策としては、簡単です。 1. 屋根などに付着しているセシウムなどの放射性物質を洗い流す。 2. 雨樋を掃除し、雨樋の下の地面など、家屋周辺の土壌5cm程度を撤去する。 3. 家屋周辺を15cm程度の厚さのコンクリート壁で囲う。セシウムからのガンマ線は15cm程度のコンクリートで10分の1以下に減少するので、家屋周辺からの放射線被爆を減少できる。(セシウムからの660 keVガンマ線は空気中100mを飛んでやっと40%に減少、200m飛んでも16%しか減少しない。現在報告されている空間線量は、空気中に漂うっている放射性物質のものからでなくて、地表から放出されたガンマ線を測定した結果です。) などの丁寧な対策で生活物資さえ安定に供給されれば、放射線被爆の問題が無く生活だけは続けて行けるでしょう。 しかし、はたして、福島原発周辺の個別の少数の人々にとってのこういった特殊な対策が十分な対策として成り立つかが問題です。福島第一原子力発電所廃炉には数十年の長い年月を要します。この長い60年間に、原子炉を雇用のよりどころとしてきた多数の人々の生活再建をどのようにしていくかを考えない限り「原子炉周辺にはいつ入れるのか?」という問いには答えた事にはなりません。経済的に雇用を創出し、子供たちが明るい未来を考える事の出来る文化的社会創出を考えて行くことが必要です。 私たちが招いた危機をしっかり見つめ、この危機を克服しチャンスにかえることが出来るかを考えること。これが重要です。さもなければ、福島原発周辺は、文明に見捨てられた廃墟となるでしょう。このような文明の廃墟は世界中にあります。 一人の科学者の私案として、参考意見を述べさせていただくならば、福島原発周辺の産業、社会復興で必要なのは以下に述べるような「長い道程」の大規模改造を行う事ではないでしょうか? 放射能レベルを下げるためには、土壌を掘り下げ、天地返しをする以外には無いでしょう。しかし、これを個別な小さな個別地域で行っても、経済効果は少ないので、大規模に行う。これらは、 1. 放射線レベルの高い周辺地域20km x 40km領域の山谷を削り、埋め立てることによって広大な平地を作りだす。オランダでは長い年月をかけて広大な土地を開拓してきた歴史がある。オランダの例を見るならば、20km x 40kmはそれほど広大な土地ではない。土木産業によって巨大な雇用が生まれる。また、放射能レベルの低減も出来る。 2. 太陽パネルを敷き詰め、新たなエネルギー産業を創出し、雇用を確保する。東大の試算によれば、日本のエネルギー重要を賄うには一万平方kmに太陽パネルを設置する必要があるとのこと。福島原発周辺の20km x 40kmに敷きつめても800平方kmであり、10%程度である。また、電気エネルギーを電気分解して蓄えておく蓄電施設や水素燃料施設も必要となる。 3. 高等教育機関の設立、自然再生エネルギーや放射線に関しての研究機関、病院の設置。 4. 大規模工業団地の設立。 5. 港湾、飛行場など、物資輸送のハブ施設の設立 6. 人々が集まるようになればアミューズメント施設や商店街なども出来る。 7. 金融マネージメントセンター、ITセンターの設立 となりましょう。 もちろん、水の放射能汚染などの問題はあります。しかし、これは、現状でも早晩問題視され、しかも、解決が難しい問題である。必要総費用は100兆円以上の巨大プロジェクトになり、未解決の問題は多くあるが、長期間にわたる科学的検討と着実な施策立案によって福島の再生が可能となるでしょう。また、個別の人々の問題はしっかりとした科学的対応で解決して行くことも極めて重要です。 福島にゆかりのある高村光太郎の詩「道程」はこのように歌っている「僕の前に道はない。僕の後ろに道は出来る。ああ、自然よ。父よ。僕を一人立ちさせた広大な父よ。僕から目を離さないで守る事をせよ。常に父の気魄を僕に充たせよ。この遠い道程のため。この遠い道程のため。」 長い希望への闘いの道程を一歩進み出すかどうかは、日本の我々の選択肢の一つでしょう。
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