文芸学研究会第51回研究会+『文芸学研究』第17号合評会
- 文化・芸術
文芸学研究会第51回研究会+『文芸学研究』第17号合評会を開催いたします。どなたでも自由にご参加いただけます。
カテゴリ | 文化・芸術 |
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日時 |
2013年6月22日(土)
13時00分から18時00分まで
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会場 | 待兼山会館2階会議室(豊中キャンパス) |
主催 | 文芸学研究会 |
問い合わせ先 |
文芸学研究会 http://www.let.osaka-u.ac.jp/bungeigaku/news.html |
【発表題目】
山口涼子 北ロシアにおけるロシア正教の泣き歌へ
の影響
岩﨑陽子 香りとことば―生きられた空間認識のための一試論
【発表要旨】
山口涼子 北ロシアにおけるロシア正教の泣き歌へ
の影響
ソヴィエト時代は宗教が禁止されていたために、フォー
クロアの研究者は泣き歌に現れる他界観を、宗教ではなく
、通過儀礼によって解釈してきた。即ち、「他界する」と
は、「分離」、「過渡」、「統合」という、一つのステー
タスから他のステータスへの移動であるとするものである
。そして、ある状態から別の状態へ、ないしはある世界か
ら他の世界への移動に際して行われる儀式で歌われる歌が
泣き歌であるとみなされてきた。しかし、小論は、そうし
た通過儀礼とは相容れない概念も存在することを、論ずる
ものである。
今回は、葬礼・追善供養の儀礼、婚礼において歌われる
「泣き歌」のテクストや儀礼の分析を、19世紀末から2
0世紀初頭にかけて盛んに議論されたロシア・ルネサンス
と呼ばれる新しい宗教・文芸運動と、ロシアの農村に広ま
っていた他界観(宇宙精神)との比較を通じて解釈を試み
た。当時のロシアにおける思想の流れは、前の世紀にピョ
ートル大帝によって進められた西欧化政策と、それに対峙
するように台頭したスラヴ派とが相対立していた。そうい
った状況の中で農民の示す他界観は、異教の影響が色濃い
ロシア正教的魂の在り方を如実に示している。この時代の
潮流を不当に拡大解釈しないために、本論文発表者は死す
べき人間の意識から出てくる精神と魂の在り方を様々な観
点から確認するものである。
岩﨑陽子 香りとことば―生きられた空間認識のための一試論
「かたち」あるものを制作する造形芸術に対して、香り
を素材とするアートは「かたち」や「境界」を持たない。
それゆえに、香りをことばに託して表現することが多々あ
る。古くは組香(世界に類を見ない香を用いた日本独自の
遊戯)に見られる香と和歌や古典文学との結びつき、また
現代の香りを用いたインスタレーション等にしばしば組合
わされる諸々のことば。
従来、香りとことばの結びつきの理由については、香り
の曖昧さや時空間における句切れ目のなさを補うために、
ことばによって具体的な方向づけをなしてある種の世界観
を現出させるものだと説明されてきた。
しかし、香りとことばの結びつきには、より深い意味が
あるのではないだろうか。むしろその在り方を探究すれば
、アリストテレス的な物‐空間把握とは異なる、より生き
られた空間の認識が蘇るのではないか。
本論は香りとことばの関係から空間認識の問題を抽出し
、これに関連するベルクソンやメルロ=ポンティ、ギブソ
ンらの理論を検討することによって、新たな芸術理解の可
能性を探ることを目的とする。