GLOCOLセミナー(87)フィールドワークの倫理的ジレンマ;『調査したいこと』と『調査してもらいたいこと』のギャップをめぐって

  • place 吹田キャンパス
  • その他
GLOCOLセミナー(87)フィールドワークの倫理的ジレンマ;『調査したいこと』と『調査してもらいたいこと』のギャップをめぐって

私がモロッコの農村部で、妊娠・出産に関するフィールドワークを始めて10年近くが過ぎた。調査を始めた頃、私は村の人びとに対して調査の目的を伝えるのに非常に苦労したことを記憶している。当初私は,医師でも看護師でもないと説明したにも関わらず、人びとは妊娠・出産に関してあれこれ尋ねる若い私を医療者の卵と勘違いした。そして、妊娠や出産に関して自分たちは全く困っていない。それより、人びとが患っている病気のことに関心をもってくれと口々に言ったのである。 モロッコの農村部では、妊産婦死亡率が非常に高い。そのため、こうした農村部の悲惨な状況を改善する一助になればと調査を開始した私にとって、住民たちの反応は驚きであった。そのなかで、私は文化人類学という異文化の住民の立場に立って思考する学問を専攻している自分が、人びとが医療の対象として意識していなかった出産を医療の対象としてみていたことに思い至ったのである。 本発表では、このような『調査者』と『被調査者』の調査に関する認識の違いに注目し、いかにしてそれを乗り越えてゆくか具体例を示しつつ考えてみたい。

カテゴリ その他
日時 2012年6月20日(水) 18時40分から20時10分まで
会場 大阪大学人間科学研究科東館207教室
主催 大阪大学グローバルコラボレーションセンター
問い合わせ先 大阪大学グローバルコラボレーションセンター

http://www.glocol.osaka-u.ac.jp/research/120620_2.html

参加: 無料、事前申し込み不要

※ 本セミナーはGLOCOL科目「フィールドワークの実践と倫理」の授業の一環として行われるものですが、一般公開とします。

講師紹介

井家晴子(いのいえ はるこ)

日本学術振興会特別研究員RPD
東京大学大学院総合文化研究科超域文化科学専攻文化人類学分野博士課程単位取得退学、医療人類学専攻

主な業績:
「つながりとしての妊娠・出産―モロッコ農村部から妊産婦をとりまく環境を考える」『アジア遊学』(特集:世界の出産)、勉誠出版、pp.222-233、2011年3月。
「モロッコ、アトラスの村の生活の変容と住民たちの選択―村落開発NGOをめぐる移民と住民の共同プロジェクト―」、宮治一雄、宮治美江子編『マグリブへの招待―北アフリカの社会と文化―』大学図書出版、pp.177-191、2008年3月。
「ハイリスク妊娠・出産と人々の「異常」概念―モロッコ農村部における母子保健政策と住民の葛藤―」、『人類学と国際保健医療協力』、松園万亀雄、門司和彦、白川千尋(編)、pp.117-150、2008年2月。

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