[イベントレポート]第50回大阪大学公開講座 後期–5「日本の財政と将来負担を考える」
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2018年10月17日(水)に開催した今年度の大阪大学公開講座、第5回「日本の財政と将来負担を考える」の開講レポートです。21世紀懐徳堂学生スタッフ、平良が執筆しました。 50回目を迎えた今年度の大阪大学公開講座は、共通テーマ「阪大発 研究最前線」のもと、全10回の講義を行います。
約900兆円にも及ぶ債務を抱える日本――この数字は2015年に破綻したギリシャの債務額とほぼ同等であり、世界でもダントツに大きい。それにもかかわらず、日本が今日まで破綻していないのはなぜなのか?日本の今後の財政は大丈夫なのだろうか?
講師の国際公共政策研究科・教授の赤井伸郎先生にご講義いただいた。先生は公共経済学・財政学を専門とし、その観点から公共政策(政府の租税政策、歳出政策)、政府構造政府統治(ガバナンス)のあり方を考えている。また、そのような知識を生かして財務省財政制度審議会や経済財政諮問会議専門委員会、内閣府政府財政調査会、国道交通省交通政策審議会等の委員も務めている。まさに最前線に立つ研究者だ。
演台に立つ国際公共政策研究科・教授 赤井伸郎先生
財政の話と聞いてなんとなく難解な気がしてしまい身構えていたが、それが杞憂であったことがすぐにわかる非常に明快な講義だった。財政の何たるか、という基本的な話から出発し、日本の財政構造の変化、昨今のホットトピックである消費税増税について、その他非常に重要なテーマについてわかりやすく説明していただいた。
日本では、主に租税と社会保険料の徴収、国債などでまかなわれる歳入から、社会保障費、地方交付税交付金、国債返済金などが捻出されているが、国債の発行額は国債の返済額を10兆円程度上回っている。つまり、借金を返す額よりも借り入れる額の方がはるかに大きいのだ。こうして日本の公債は雪だるま式に膨れ上がってきている。この状況が続けば、将来世代に巨額の負債を残してしまうことになる。それを防ぐためには歳出を減らすか、歳入を増やすしかないが、これが頭の痛い問題だ。少子高齢化がますます進展していくこれからの日本で、社会保障費などを含む歳出を減額するのは非常に困難だ。実際、この20年で歳出における社会保障費はその総額も割合もおよそ3倍にも増加しているし、今後もその額は増え続けるだろう。それゆえ、十分な歳入を確保する必要があるのだ。
財政について明快な説明を加える赤井先生
一般会計歳入総額の半分以上を占めるのは、所得税・法人税・消費税を主とした租税収入だ。これは、高度経済成長期には歳出の増加と同時に増加したが、バブル崩壊以降歳出と税収の差は「ワニの口」のごとくどんどん開いていっている。この開いた「口」を閉じてやらなければならない。近年日本銀行の金融緩和政策などが一定の成果を上げているが、それでも足りずに毎年巨額の特例国債を発行している状況だ。講義の途中で先生が見せてくださった、財務省制作が若者向けに制作した財政についての解説ビデオクリップは、この借金を返済しきれるかどうかは将来世代に懸かっている、という内容のものだった。一若者としては沈鬱な気持ちになるものだったが、このままではビデオで言われていたようなことが実現してしまうのは明らかだ。どうにかして、今から税収を上げていかなければならない。
3大租税の内、増税が最もしやすいものが消費税だという見解は世界的に共有されている。これに基づき日本でも、2015年に従来の5%から8%への増税が行われた。また政府は来年10月にさらに10%まで引き上げる意向を表明した。一連の増税にあたり、政府は低所得者の介護保険軽減と低所得高齢者への生活支援の方針を明確に打ち出した。これに加えて、前回の選挙の際には新たに幼児教育の無償化、待機児童の解消、高等教育の無償化、介護人材の処遇改善も示された。
こうした状況にあって日本は今後どの方向を目指していけばよいのだろうか。財政においては急激な改革は難しく、段階的にキーワードのひとつが、プライマリー・バランスという言葉である。これは、歳入と、国債費の支払いに充てられる費用を除く歳出とのバランス、すなわち基礎的財政収支を指す言葉である。まずはこのバランスを正常に釣り合わせる必要がある。そのためには、一人当たりに対するサービスを見なおしつつ、同時に取るべき税はしっかりと徴収する必要もあるだろう。日本は個人資産が潤沢だと言われており、巨額の借金を抱えても破綻しない理由はそこにあると言われる。将来世代だけに重荷を課すのではなく、長期的に計画性をもって皆が少しずつ支え、支えられる社会が、財政の面でも実現すればよい、と感じた。
日本の今後について熱弁をふるう赤井先生と、聴き入る参加者