[イベントレポート]Handai-Asahi中之島塾「視覚再生を目指して〜人工網膜を中心に」
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2月13日(土)に開講されたHandai-Asahi中之島塾「視覚再生を目指して〜人工網膜を中心に」のイベント開講レポートです。大阪大学大学院医学系研究科の不二門尚教授にお話いただきました。
はじめに、モノが見える仕組みと網膜の構造についてお話がありました。
私たちは目で直接モノを見ているのではなく、目で受け取った映像(=光の情報)を電気信号に変え、電流となった情報を脳に届けて、脳でモノを見ているのだそうです。
脳まで情報を届けるために重要な役割を果たしているのが網膜で、網膜には、光を受け取る視細胞と光の情報をデジタルの電気信号に変える神経が存在しています。この網膜が、まるで小さなコンピューターのように、「見ること」に関する情報処理をしているのです。
講座の後半では、人工網膜の仕組みと、不二門先生の研究についてご説明がありました。
人工網膜とは、小型カメラの映像を電気信号に変え、電気信号が電流として体内に埋め込まれた電極を通して網膜を刺激することで、光を認識できる仕組みの装置です。
不二門先生のチームの他にも、アメリカやドイツの研究チームが研究を進めていて、特にアメリカ製の人工網膜は実用化され、1000万円ほどの価格で市販されているそうです。
不二門先生のチームが開発する人工網膜は、網膜の上や下ではなく脈絡膜上に電極を置くことによって、安全性・安定性を高めている点が特徴です。
先生が開発している人工網膜の手術対象となるのは、視細胞は障害されているが、網膜の中の神経は残っている人です。
網膜色素変性症という病気にかかると、だんだん視野が狭くぼやけて見えるようになり、最悪の場合は失明することもあります。不二門先生の人工網膜埋植は、この病気が進行し、両眼の視力の和が0.01以下となった患者さんに対し行います。
現在、不二門先生の人工網膜の研究は第3世代に入っており、埋め込む電極を2枚に増やすことで従来の人工網膜より視野が拡大されます。これによって、「対象の場所がわかる・形がわかる」という段階から、「歩行が可能になる」という新しい段階に視覚の情報が進むことが期待されています。

お話の中で印象的だったのが、新しい医療機器が開発され、一般社会に普及するにはたくさんの困難が待ち構えているというお話です。
新しい医療機器は、動物実験で安全性・有用性を確かめる段階から「魔の川」と呼ばれる困難を越えてヒトの少数の臨床実験で安全性・有効性を確かめる段階、さらに「死の谷」と形容される困難を越えて臨床治験で有効性を確かめる段階、さらに薬事承認を得て「ダーウィンの海」の困難を越え、他企業との競争に勝って、初めて一般社会に普及することが可能になります。
先生の開発する人工網膜は今、臨床実験を終え「死の谷」を越えた段階にあり、現在治験の段階に入っているということです。
常に患者さんと話をする機会を設け、患者さんが何に困っているのか・どんな条件なら手術に踏み切ろうと思えるのかなど、生の声を聞くことを大切にしているという不二門先生。
今回の講座でも、目の病気の具体的な症状や、初期症状に気付くための方法など、日常生活の中で役立つ知識や予防対策も、たくさん教えていただきました。
(文責:21世紀懐徳堂 肥後)